コラム

第9話 龍馬脱走事件 その5

龍馬が脱走して3日目(経緯は第5話第6話第7話第8話)。
48時間以上飲まず食わずでさまよっているのかと思うと焦りもあり、色々失敗も出てくる。
とにかく私は、夕べベランダの下から2階を見上げて帰りたいと悲しそうな声で鳴いていた姿が頭から離れない。龍馬は1階の地面から窓のひさしを伝って、2階に上がろうとして途中まで上がって来ていた。龍馬は2階のあの部屋のベランダが自分の家だということは認識している。何か工夫したら龍馬が誰も見ていない時間にこっそり自力で2階のベランダに帰って来れるのではないかと私は素人ながらに考えた。そこで思いついたのがハンモック。2階のベランダの手すりと1階のメンテナンスエリアを囲むフェンスか植えてある桜の木をつないだらどうだろうかと考え、仕事の帰りにアウトドアグッズ売り場へ。しかし距離が短すぎて、長いハンモックをつなぐとほぼ60度くらいの傾斜になる。布生地でできたハンモックをその角度で上って来れるのは昆虫くらいのものだろうと気づく。
意気消沈して帰宅し、夜10時半頃、夜の捜索に出かけ、犬の散歩の人を狙って外で目撃情報収集をしていた。日ごろ近所づきあいもしていないのに皆さん親切だった。動物を飼っている人には私の気持ちはわかってもらえるらしい。

そこへ突然、マンション1階の住人が道路に飛び出してきて、私にこう言った。
「昨日、うるさくて眠れなかったのよ。うちの子が具合悪くして今日学校休んじゃったのよ。うちはね、10時に寝るのよ、だから(捜索を)10時までにして!!」
とすごい剣幕だった。私はびっくりして返す言葉が思いつかず。

びっくりその①
この人は子供の小学校が同じだったので、私にしてみれば仲良くさせてもらっていた人で、おとなしめの常識的な人だと思っていた。その人が一応うちの緊急事態に、そんなことを言ってくるとは想定外だった。

びっくりその②
前夜はベランダの下で龍馬の姿を見かけた夜だ。すぐに見失ってしまったので、夜11時過ぎから龍馬に呼びかけたり、1階のこの住人に謝りながら電話をかけたり、そこに捕獲器を仕掛けたりし、1時近くまで騒々しかったことは事実だ。しかし前日にこの人には事情を説明してあった。家族の危機に瀕した私のその行動が、たった一日でそんなに責められるべきことなのだろうか。

びっくりその③
一般論で迷惑というのではなく、うちは10時に寝るからという理屈。

その時はわからなかったが、猫ボランティアをするようになった今、わかったことがある。それは犬猫のことでは人が変わるということだ。人に対して常識的な優しい人間が犬猫に対しては残虐ことを平気でする。精神異常の虐待犯だけではなく、普通の人が平気で子猫を捨てたり、殺処分してくれと保健所に持ち込んだりするのだから。
世界的には、親切で正直で思いやりがある人種だと思われている日本で、捨て犬猫や殺処分が多い状況がそれを物語っている。私の高校時代の仲良しの友人も、ある日その子の娘のわがままを聞き、ペットショップで犬を買ってきたところ、娘はろくに面倒も見ず、そのうち脱走させてしまったのに、家族誰も探しにも行かなかったという。その友人は人間には常識的な良い人なのだ。
きっとこの1階の住人は動物が嫌いだったのだろう。
あとで冷静に考えればうまい対処の方法はあったのかもしれないが、その瞬間びっくりしすぎた私はとにかくその場で謝り捜索を中断、すっかり萎縮してしまった。
翌日から捕獲器を設置する時間を早める、その家に通常の近所への心づけよりもはるかに高い金額の物を商品券と共に届けるなど、できる対策は講じたが、猫は夜動くのだから10時に捜索をやめるわけにはいかず、遠慮しながら継続するしかなかった。

これも失敗だった。
確かに迷惑はいけないが、あとで謝ってすむ迷惑ではなかっただろうか。実際、迷惑だと言ってきたのはこの人だけだった。のちに、遠慮せずにしっかり探してね、と言ってくれたり、自宅の庭に自由に入ってよいと言ってくれたり、ポスターを自宅の壁に貼ってくれたりする人が沢山いた。
あとで考えたら、龍馬はまだその時は1階の住居の周囲にいたのだ。その時に何としてでも捕まえていれば、あんな壮絶なことにはならなかったのだ。
結局、そこから延々と見つからない日々が続く。

昼間にできることとして次に思いついたのが、近所に材木屋があったこと。ハンモックは無理でもこの材木を1階から2階のベランダに立てかけたらどうだと。(写真1参考)。当然マンションの管理人は目を丸くし、景観上、防犯上、認められないといったが、いや、それでも家族の命が!!と食い下がり、例外的に認めてもらった。
材木屋にかけこんで、材木一本、猫が下から上がって来れるように、ベランダの手すりに固定してもらいたいと頼んだ。材木屋さんはこんな依頼は初めてだという顔しながら了解してくれた。敷地が狭いのでかなりの急こう配になるが、龍馬が帰りたいなら恐怖に打ち勝って上ってくるだろうと思った。
しかし結局はこれも仇になったことをのちに思い知る。
続く

【写真1】

zaimoku

コラムニスト:Candy (キャンディ)

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